引き継がれる住まい 古民家再生「光と風が通る住まい」
構造:木造伝統工法
階数:2階建
2階:75.6u
1階:172.91u
延床:75.11坪
構造設計:(株)増田建築構造設計事務所
設備設計事務所:環境設備計画StudioLump98
施工:(有)宮島建具店
左官:小松左官工業
設備:軽部設備
電気:本山電気工事店
手洗器:魚蓮坊
(鳥栖の陶芸家松尾伊知郎さん)
彫刻:佐藤彫刻
(板橋の無形文化財彫刻師佐藤昌月さん)
 建築写真家 輿水進
代々続くご主人のご実家で先祖が大事に守り続けてきた住まい。築96年のS邸は大正時代に地元の大工・石工らによって建てられ、建設直後の関東大震災にも耐えました。風邪通りを阻害していた増築部分を減築。吹抜けとし、窓の配置を変更するなど工夫を凝らし風の通りを考えました。
光りが届かない部分は光井戸を設け補って居ます。木の温もりを感じながら、光と風が透る住まいになりました。
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主寝室に隣接し、ウォークインクローゼット、納戸があります。
使われて居なかった和室や洋間を主寝室と洋間納戸に。子供部屋を減築しウォークインクローゼットを設け
暗い土間であった玄関ホールに吹抜けを作りました。
 
 
当時の面影が残るように既存の材を残しながら、塗装は一切かけずに鉋で仕上げました。
大戸は当時のままの姿を残し真鍮のレールは磨き直して復元しました。
食堂・居間
8帖2間の和室を仕切っていた板戸を外し一部屋に。奧の仏間に板戸を移しました。
神棚の移設と既存建具の補修を行ない、扉の板張り2ヵ所を硝子に変更しました。
■外構・玄関・ホール・プレイルーム(愛犬の為の部屋)
軒樋や破風、軒裏・垂木などの補修を行い、玄関はタタキ・敷石仕上げとしました。
雨水が建物周りに溜らないような排水計画を行いました。
玄関は広い土間で2階を増築した状況で採光が届いていなかったのを減築し吹き抜けをつくりました。
玄関ホールを作り、階段の勾配を緩やかにしました。
段差の解消をすることでバリアーフリーに対応しています。
■食堂・テーブル・神棚・台所(キッチンは独立型にし、シンク、作業台、飾り棚は造作)
8帖の畳部屋に廊下を取り込み、持ち家具の配置計画を行いました。
テーブルは椅子とテーストが合うように製作しました。
キッチンの背面には2帖のパントリーを設けることで収納力の向上を目指しました。
天窓を設けることで、明るさと通風を確保しています。
■仏間・縁側・つまみ
     
仏間は傷んだ部分の交換・既存補修をし、当時の部屋をそのまま残しました。
田の字部屋を囲む廊下は既存建具の補修を行い、内側には猫間障子を新たに新設しました。
取っ手やつまみなど設えに合わせて手づくりしました。
■洗面・浴室・便所・書斎・プレイルーム(ワンちゃん部屋)・廊下 
水周りや裏庭(北)に面する部屋はペアガラスと防犯窓を組み合わせた2重窓としました。
プレイルームには犬のための足洗い場・納戸を設け、サブ玄関として機能するよう考えました。
■2階 廊下・吹き抜け・主寝室・ウォークインクローゼット・納戸・便所・寝室
廊下の幅を半間拡げました。
娘さん達が里帰りした際にも対応できるよう、個室を設けています。
外部のアルミ製ベランダは長年使用されて居なかったため、取り外しました。
■解体・再生・修復
 
構造体の補強や補修を最優先に考え、96年もの間触れられなかった傾いた柱・梁の躯体補正や根継、土壁の補修を行いました。
■改修前
 1階
2階         
 
設計・監理ポイント
建築計画当初、建替と再生の2つの選択肢がある中で「どのような環境で生活をしたいのか、どのように暮らしていきたいのか」が計画を進める決め手となりました。
古民家再生をするにあたり、インスペクションを行いました。
材木の樹齢や乾燥状態などのチェック、民家に合う材料の調達や、後のメンテナンスを容易に行うことができるような設備計画をし、50年、100年、200年と「暮らしの変化に順応できる」持続可能な住まいになるよう考えました。
古民家の特徴である外観、開放的な空間を崩さず、「暑さ・寒さ」をどうすれば解消できるのかを検証し、断熱材や建具の種類にこだわりました。重要な構造体である田の字型の骨組を崩すことなく、間取りの整理を行いながらプランニングをしたことで省エネや耐震性の向上を満たしました。

先祖から引き継いできた家に対する思いや愛着を感じつつも、年々寒さや暑さをしのぐことが難しくなっていること、建物自体の老朽化、これまでの暮らしに不便を感じてこられたことなど、色々な思いがある中でコレクションしていたビンテージ家具の置き場に悩んでおられたこともあり、それらを解消すべく計画を行いました。

施工期間は一部解体、構造補強を含めて12ヶ月。重要文化財の修復を行う職人とつくりました。
手洗い器、彫刻、テーブル等はスケッチをしたものを各職人とデザイン打ち合わせを行い、作りました。
現代の住まいは工業製品で成り立っていますが、暮らしの変化や世代交代を機に建替えられてしまう。また、そのもの自体が30年〜60年で寿命を迎えることになってしまいます。古民家といわれる住まいの良さは傷んだ部分を交換していくことで何百年と引き継ぐことが可能です。それは伝統建築で建てられた木の家が持つ利点でもあります。
世代を超えて本物の素材の魅力に飽きずに永く住んでいただけるような住まいになったと思います。

※インスペクション・・・間取りを確認し、構造強度や設備、使用されて居る材料の判定などを行う既存調査作業。
建て主の希望

・建て主から
自分たち夫婦の世代になり、子育ても終え、これからは自分たちの時間をゆっくり過ごすことができるような住まいにしてほしいと思いました。先祖代々の残した家に愛着があり、なるべく再生の方向で考えていました。
ただし、夏は暑く、冬は隙間風で寒いことから日常の居場所が北側のキッチンの一部屋で家族で生活している状況であること、昼間でも照明が必要なこと、掃除がし難く、見た目の老朽化で耐震性も気になります。

それらの不安なことが解消できるのでしたら、この家に住み続けたいと思いました。

また、これからの暮らしには不便な間取りということもあり、使い勝手も気になって居ました。
これまで行き場の無かったコレクションしているビンテージ家具を眺めて暮らすことが夢です。

竣工後
・建て主から
築96年経っても変わらない外観で再生できたこと、当時の材料や面影をできるだけ残しながら今の生活に合わせた住まいになったので、訪ねて来る親戚もとても喜んで居ます。この家で育ち多くの思い出や愛着がありました。
古民家再生を行って良かったと思います。
玄関ホールの吹き抜けの窓を開けると、食堂や居間に風が通り、暑い日でも涼しく過ごすことができるようになりました。各部屋も風通りがよく、日照が長く得られるようになり、居心地が良くなりました。
何よりも、犬専用部屋に引っ越しをしたことをきっかけに愛犬がとても元気になったことが嬉しいです。また、お嫁に行った娘も頻繁に顔を出すようになり、キッチンに一緒に立つことも多くなりました。友達が朝から夕方まで長居してソファーや椅子に座っていても、居心地が良いと言ってくださるのでお茶の時間が楽しくなりました。最近では木枯らしも吹き始め、寒い季節に入って来て居ますが、以前のようにダウンコートを着た生活は無くなりました。朝起きてキッチン・食堂に立つと昨晩の温かさが残っていて暖房を寝起きで入れる必要がありません。障子を閉めると、とても冷暖房の効きもよく、夏は涼しく、冬は暖かく、快適に過ごして居ます。

2年の歳月を経て、無事にお引き渡しすることができました。お施主様はじめ、建築工事に関わった全ての方に感謝します。
 
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